4. お家芸
研究室間の交流を深めるという名の飲み会が模様されるとの連絡が回ってきた。
その日は日程を詰め、出来るだけ参加するようにと言われた。
あまりない外との交流ということもあって私も参加することにした。
当日、さすがに1日の仕事を圧縮するのも限界があり、少々遅れ参加した。
すると"ヤツ"はwelcome drinkと称して酒が入った紙コップを持ってきた。
匂うと明らかに高濃度な酒の匂いがする。
勧められるがままに飲もうとするが、口をつけた時点でムリだと感じた。
それを見た"ヤツ"は「これが飲めないヤツは指導はしない。だから卒業もできない」。
割りと真顔でそう言っていた。
意を決して飲む。
喉が痛い。息をすると肺が焼けそうになる。
後で聞いた話では"ヤツ"が飲ませていたのは実験用に試薬で、
かなり高濃度なアルコールが含まれるものだったらしい。
もちろん飲むと人体に影響が出る可能性は高い。
「これ飲めないヤツは破門だから。飲めてよかった。」
そう笑顔で言われたが、こっちは愛想笑いで精一杯。
その後"ヤツ"が何人に同じことをしたかは知らない。
3. 5%の真実
この世界で生きていくためには若いうちにバケモノのようなレベルの人達に囲まれていた方がいいと思っていた。
その人達と関わるには、やはり結果しかないと考えていた。
幸いまだ若く体も元気、やる気も十分にある。
大量の実験をし、1日に何本も論文を読む日々が続いた。
そんなある日、"ヤツ"に呼び出される。
どうやら自分が思っている方針と結果が少し違っていたようだ。
「再現はとってある」。
すると「もう1回だけやってみてくれ。その時この条件も追加で」
と言いつつメモを渡してきた。
正直面倒な内容ではあったが実施することにした。
やはり同じ結果になる。
それを伝えると「数を増やしてもう1回やろう」
その繰り返しだった。
日に日に"ヤツ"の顔は険しくなる。
しかしある日、"ヤツ"が望むような結果が偶然とれた。
「さすが俺!じゃあ次はこれをやって、こういう結果が出るか見てくれ」
こう言われて私の嫌な予感は的中した。
"ヤツ"はストーリーありきで研究を進めようとしている。
先の偶然の結果についてはほぼ再現が取れない。
20回やって1回出るかどうか。
「それなら60回やれば3回データとれるだろ」
そのような趣旨のことを言われた。さすがにこれには反論し、その場は収まった。
しかし、ここから"ヤツ"の暴君ぶりはエスカレートしていった。
2. 誤算
修士課程までにひとつの論文を仕上げ、新しい領域を学びたいと思い門を叩いた。
そこは世界でもトップクラスの研究成果を出してきた猛者達が教室を構える研究機関。
最初に見学に行った時、教授は温かく向かい入れてくれた。
その後、ヤツに会った。今思えば、それが人生の転機だった。
私が希望する研究はヤツが指揮をとっているらしく、詳しく話を聞いていると
「まあ、名目上朝9時から夕方5時だけど、日付が変わるまでやるよな」と言われた。
アカデミアなんてそんなものだ。
「それはもちろんです。今と何も変わりません。」と返答すると
「そうか、それは安心した」と返ってきた。
後日、何とか試験をPassし新天地での生活に期待を膨らませ、研究を開始した。
最初は丁寧に指導をしてくれていたが、次第にその方針や指導に疑問を持ち始めた。
確かにヤツの実績は同年代ではすごいと思う。
が、全く理論が通じない。
さらには自身の成果について聞いても「それはそういう結果が出るようなテクニックがあるんだ」
と言われ、詳細は教えてくれなかった。
しかし、それでも何とか上手くやっていき、私の研究も早々に軌道に乗り始めた。
そんな中、同じフロアで研究を行っている研究員の人がこんなことを言い出した
「ヤツは自分で論文を書いたことがないし、実験の発案もしたことはない。」
「ここに来てからは馬車馬のように働いていたけど、一切勉強はしてこなかったことを自慢話のように語っている」
つまりはお情けで席をもらったということだ。
確かにアカデミアの成果は実績以上に運が必要になる。
ヤツはまさにその典型例だった。
「ちょっと来るところを間違えたかな。でも自分がきっちりしていればそれで何とかなるか。ボスは頭のいい人だし。」
その頃はそんな甘い考えでいた。(今思えば、この時点で他に移ればよかったと後悔している。)
1. アカデミアの闇
今までの記事を全部消した。
発信する内容を変えたかったので。
これから書くことは、私が博士課程が受けた教員からの嫌がらせ
いわゆる"アカハラ"といった類のことだ。
何回かに分けて書いていこうと思う。
博士課程へ進学する方、お子さんが博士課程に在籍している方
あるいはこれから博士に進もうとしている人達の参考になればなと思う。